大会長挨拶

第43回 日本口腔腫瘍学会総会・学術大会
大会長  片倉 朗
東京歯科大学 口腔病態外科学講座 教授

口腔癌患者のQOLの向上
-今、やるべき治療、進めるべき研究-

 近年,国民の高齢化と社会環境の発癌性要因の増加によっていずれの臓器においても腫瘍罹患者数は増加し、厚生労働省の統計において40歳代から80歳代の死因の第一位が悪性新生物である状態が続いています。口腔癌は希少癌に分類されるものの他の臓器と同様に増加傾向を示して、今や子宮頸癌と同じレベルの罹患者がいます。
 一方で口腔癌治療ガイドラインが2023年に改訂され、口腔癌においても厚生労働省が掲げる診断と治療の均てん化が進んでいます。特に治療においては遊離骨皮弁による上顎再建、ガイドサージェリー、強度変調放射線治療(IMRT)、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の適応、そして最もホットな光免疫療法など、口腔癌の治療法はここ数年で飛躍的に進歩しています。
本大会のテーマは「口腔癌患者のQOLの向上 -今、やるべき治療、進めるべき研究-」です。口腔癌を専門に扱う私達は、今現在で選択すべき治療法,にはどのようなものがあり、何が最善で、そのメリットとデメリットを正しく理解し、説明し、そして実践することが義務であると考えます。また、それらの治療のエビデンスとなる基礎研究・臨床研究、さらに近い将来の実現性が潜在する診断法や治療法に関する研究をたゆみなく進めることも予後の向上には不可欠です。臨床医であっても、今どんな研究が行なわれているかを知っておくことも必要です。そして耳鼻咽喉科・頭頸部外科、形成外科などとの関連や医療圏での連携を考慮した口腔癌の予防・早期の診断・治療についても目を向けておくことは口腔癌患者のQOL向上に欠かせないことです。これらをコンセプトに学会を構成してまいります。
 本大会では、日本治療学会理事長を経験された慶應義塾大学医学部 外科学教室の北川雄光教授に「がん集学的治療のこれから」、東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科学教室の鴻 信義 教授に「内視鏡下経鼻的上顎洞手術 現状と今後の展望」についてご講演いただきます。海外からはIAOO(International Academy of Oral Oncology)のSecretary GeneralであるSe-Heon Kim教授(Yonsei University)、再建手術において世界的に著名な頭頸部外科医であるK. D . Wolff教授(Technical University of Munich)をお招きして講演をいただきます。
 これからの口腔癌の治療を担う、あるいは担いたいと希望を抱く若い先生方。口腔癌に関する研究に取り組んでいる病理学をはじめとした基礎医学の先生方や大学院生にも参加いただいて活気ある学術大会になることを期待しています。

2024年6月1日